森川研究室

Research

量子力学と人工知能による新物質開発

コンピューターはいずれ人類の知能を超えると言われています。事実、チェスや将棋、囲碁のようなルールの決まったゲームでは既にコンピューターが人類よりも強くなりました。物質科学においては、まだまだ人間の経験や直感が重要ですが、物質科学も量子力学や統計力学など物理学の基本原理をルールとするゲームだと考えると、いずれコンピューターが人間を追い越すと考えられます。計算物理領域では、量子力学や統計力学など物理学の基本原理と、機械学習などのシミュレーション手法を組み合わせることにより、物質が示すさまざまな性質、すなわち、電気的、磁気的、光学的、化学的、力学的性質の物理的機構を解明し、より望ましい性質を持つ物質を理論的に設計する研究を行っています。

手法としては、物理学の第一原理に基づく電子状態計算プログラムを開発し、分子動力学法やモンテカルロ法といった統計力学的手法や、ニューラルネットワーク、深層学習、ガウス過程回帰などの機械学習法と組み合わせることにより、物質の振る舞いを電子、原子、分子レベルから明らかにし、それがマクロな物質の性質にどのように結び付くかを解明してきています。このように物理的機構を明らかにすることにより、より望ましい性質を持つ物質を設計する指針を与えることが可能になります。

具体的なターゲットの物質としては、産業の発展やエネルギー、環境問題に重要な物質の開発に力を入れています。例えば、カーボンニュートラルな社会を実現するには、二酸化炭素を回収して燃料や化学製品に変換して再利用することが必要です。本研究グループでは二酸化炭素を水素化してメタノールに変換する触媒や、さらにはメタノールを燃料とする燃料電池電極触媒反応を調べ、より高効率な触媒反応を実現する手法を提案しています。

ダイヤモンドはその美しい輝きから宝石として重宝されてきました。また、あらゆる物質の中で最も硬く、他の物質をカットするなど加工用工具としても活用されています。さらに、電気自動車に使われるパワーデバイスには理想的な性質を持ち、また、量子デバイスの材料としても期待されています。しかし、ダイヤモンドは硬く、化学的に不活性なために、ダイヤモンドを応用する際にはその加工の難しさが課題となっています。本研究グループではダイヤモンド表面上の酸化反応の素過程を明らかにし、より効率的にかつ精度良く加工するための研究を進めています。

2024年の主な研究成果

Stability of Pd_xO_y Particles Supported on Strontium Titanate Perovskite under Three-Way Catalyst Operating Conditions: Implications for Sintering Resistance

T. N. Pham, B. A. C. Tan, Y. Hamamoto, K. Inagaki, I. Hamada, and Y. Morikawa
ACS Catal. 14, 1443–1458 (2024).

Self-regenerative materials are pivotal for developing thermally-stable catalysts. Perovskite-supported metal nanoparticles (NPs) have shown promise. However, our understanding of the stability of perovskite-supported metal NPs remains limited, which is important for a rational design of self-regenerative catalysts. Herein, we employed the machine-learning enhanced configurational sampling at the density functional theory level to elucidate stable structures of supported Pd clusters under catalytic operating conditions. A higher oxidation degree of Pd cluster enhances its binding strength to the oxide support; thereby reducing agglomeration (sintering) of Pd NPs. The roles of oxide support in increasing metal-support interaction and in mitigating the undesired solid solution reaction under an oxidative atmosphere are revealed.

2023年の主な研究成果

First-principles microkinetic study of NO reduction on Cu catalysts

M. Al Fauzan, T. Pham; H. H. Halim, Y. Hamamoto, K. Inagaki, I. Hamada, and Y. Morikawa
J. Phys. Chem. C 127, 19451-19467 (2023). (published with Supplementary Cover Art!)